構造的な問題
すべてのアントシアニンが均一に崩壊するのではなく、化学構造により安定性に差がある。例えば、ワインに含まれるアントシアニンのうち糖が2つあるアントシアニンの方が糖が1つのアントシニンより安定性が高い。又、くっついている糖の種類により安定度が異なる。メトキシ基(CH3O―)が多いほど安定し、水酸基(―OH)が多いほど不安定になる。化学構造自体は、アントシアニンが持つ固有の問題であるので構造的な原因でのアントシアニンの崩壊を防ぐことは出来ない。
酵素の問題
食品中に含まれる酵素により、アントシアニンが崩壊する場合がある。例えばグリコシダーゼが含まれていると配糖体部分が加水分解され、糖が遊離し、アントシアニンがアントシアニジンに変わり脱色する。フェノラーゼがあるとアントシアニンは、フェノール化合物であるのでフェノラーゼにより崩壊させられて脱色する。このように酵素によりアントシアニンの崩壊が起こる場合には、短時間高温で加熱処理して酵素を死活させる必要がある。
温度の問題
一般的に食品を加熱処理することで含まれるアントシアニンは崩壊する。温度が高ければ高いほど、崩壊率が加速される。イチゴを100℃で1時間保存したら50%のアントシアニンが崩壊する。即ち100℃でのアントシアニンの半減期は、1時間と言うことになる。この計算で行くと38℃で保存したら、半減期は、10日で、20℃なら54日で、0℃なら11ヶ月になるが、実際は、0℃で保存してももっと早く崩壊する。
逆に100℃ぐらいの高温で10分前後加熱してから低温で貯蔵する方が色素の崩壊を防げると言う報告もある。どちらにしても熱は、Cリングのヘテロリングを開環してアントシアニンを崩壊させる。
光の問題
生体外では、光は、アントシアニンを崩壊さすが、生体内では、光合成によりアントシアニンを作る。配糖体部分にアシル基を持つアントシアニンは、光に対して安定性を強い。黒ニンジンのアントシアニンは、配糖体部分でアシル基を持つアントシアニンを多く含んでいる。
pHの問題
pHは、アントシアニンの色に影響を与えるだけでなく、安定性にも影響を与える。一般的にアントシアニンは、酸性の状態で安定で、中性、アルカリ性では、不安定である。特定のpHで崩壊を起こすアントシアニンもある。特定のpHでのアントシアニンの崩壊には、酸素が関与している。
酸素の問題
特定のpHで、アントシアニンが酸素(空気)に接触している場合、酸素は、アントシアニンの崩壊を加速させる。密封して空気に触れなくすることや、窒素充填を行って空気に触れなくすることでアントシアニンの崩壊を防ぐことができる。ただし、ジュースなどで水中に酸素が含まれている場合には、効果はない。
アスコルビン酸の問題
アスコルビン酸(ビタミンC)は、アントシアニンの崩壊を促進させる。しかし、発色補助因子としてフラボノール類(ケルセチンとケルシトニン)があれば、崩壊を遅らせることが出来る。
糖の問題
糖が含まれているとアントシアニンの崩壊を早める。果糖、アラビノース、乳糖そしてソルボースの方が、蔗糖、ブドウ糖、マルトースよりも強い崩壊作用を持っている。酸素に触れていると崩壊が加速される。
金属の問題
アントシアニンは、金属を介在して複合体を作り、アントシアニンの色に影響を与える。発色を強める様に働く場合は、問題は無いが、退色を引き起こす場合が問題である。食品中に金属が混入するのは、食品加工中か、缶詰などの容器からである。
凝集の問題
アントシアニンは、他の物質と結合しやすく、又アントシアニン同士でも、引っ付きやすい。アントシアニンが他の物質と結合しますと、発色が強くなり、安定性も向上します。しかし、アントシアニンの凝集が、良い方ばかりが起こるのではなく、中には退色が起こる場合もある。
二酸化硫黄(亜硫酸ガス)による脱色
二酸化硫黄(SO2)は、アントシアニンの脱色に使われるので、使用してはならない。
黒ニンジンジュースを着色剤として利用する場合、当然上記の問題を考慮に入れなければならない。特に飲料などに配合する場合は、他の物質の影響を受けやすいので注意がいる。
参考文献
Anthocyanins as Food Colors, Edited by Pericles Markakis, Academic Press, 1982