よく入院中の高齢者の患者が、院内感染で死亡する記事を多く見かける。これは、高齢者が、通常の人では、感染しないような細菌にも感染するぐらい免疫力が低下しているためである。それには、アラキドン酸から体内で生合成されるプロスタグランジンE2と言うホルモン様の物質が多く作られ、これが、T細胞の機能を低下させている為だと考えられている。T細胞は、他の免疫細胞を刺激して侵入した細菌やウイルスなど異物を除去する作用を持っている。このT細胞の活動が低下すると当然抵抗力が低下して感染症に罹りやすくなる。アラキドン酸は、動物性食品に含まれていて、通常の食事から摂取することができ、自然と体内に貯まるようになる。プロスタグランジンE2は、シクロオキシゲナーゼと言う酵素によりアラキドン酸から作られる。
Dayong博士は、ブラックカラント油の効果を判定するために65才以上の29名の被試験者を使った対照群を用いた2重盲検法の試験を行った。2つのグループにそれぞれ1日4.5gのブラックカラント油と大豆油が2ヶ月間投与された。抗原として破傷風菌の毒素を使い皮膚の反応を測定することで被試験者の免疫力を評価した。毒素に対する反応は、一般的に年齢に従って低下していく。ブラックカラント油を摂取した被試験者は、2ヶ月後皮膚反応が28%増強した。対照群には、変化はなかった。ブラックカラント油を摂取したグループは、プロスタグランジンE2の産生量が劇的に低下した。一方対照群では、変化はなかった。ブラックカラント油は、プロスタグランジンE1の産生に関与するγリノレン酸を豊富に含むオイルの1つである。高齢者は、リノール酸からγリノレン酸に変換する能力が低下しているため体内のプロスタグランジンE1の量が低下する。プロスタグランジンE1は、プロスタグランジンE2と逆の働きをし、炎症を鎮め、動脈硬化や関節炎を防ぐ作用を持っている。又、ブラックカラント油は、ステアリドン酸と言う別のプロスタグランジンE2の阻害剤を含んでいる。2つのグループ
の間に他の免疫物質インターロイキンやリンパ球の産生量に違いはなかった。
この実験からγリノレン酸を補給すると善玉プロスタグランジンであるE1の産生が増加し、悪玉プロスタグランジンE2の産生が逆に低下して免疫力が上昇することが判った。免疫力を増強すると言う物質は、多く発表されているが、その作用機序が不明の場合が多い。この実験では、対象者が高齢者に限定しているとことが重要で、高齢者は、リノール酸からγリノレン酸に変換する為の酵素、デルタ-6-デサツラーゼと言う酵素の能力が低下して体内でγリノレン酸を作る能力が低下していることがはっきりしている。その為、プロスタグランジンE1の量も少なくなっている。逆にプロスタグランジンE1の量が増加すると免疫力が増強されると同時にプロスタグランジンE2の量が低下する。このように理論と実験結果が一致すると言う研究論文は、少ないし、逆に重要な報告である。
参考文献
American Journal of Clinical Nutrition 1999 Oct;70(4):536-43
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