株式会社エアーグリーン
田中稔久
ドイツのLaboratorium fur Auftragsanalytik GmbH (Koln, Germany)という核磁気共鳴スペクトル(NMR)で試験を行う会社が、アメリカのUnivera Pharmaceuticals, Inc(Denver, Colorado, USA)から依頼を受けて、アメリカで市販されている原料の分析を行った報告書(未発表)をUnivera Pharmaceuticals, Incから入手したので、その内容を基に私見を加えてこのレポートを作成しました。
過去約70年間、アロエを塗るとやけどが治ると言う事実から、多くの科学者がそのメカニズムを解明しようと研究を進めてきました。その結果、アロエに含まれる多糖類がその有効物質であることが解ってきました。天然のアロエは、200万ダルトンぐらいの高分子の多糖類(アセチル化グルコマンナン)を持っています。ところが、アロエの葉を採取して、本体から切り離してしまいますと、アロエ自身が持つ酵素の為にこの高分子を切断分解されて低分子化するやっかいな性質を持っております。更に、アロエは、細菌に取って非常に栄養が豊富で非常に繁殖しやすい環境を持っていますので、葉を採取しますとすぐに細菌汚染が始まり、内容物を分解していきます。アロエは、光合成により、まずL-リンゴ酸を合成し、L-リンゴ酸から多糖類を含む他の成分を合成していきます。細菌汚染が始まりますと細菌は、まずL-リンゴ酸を分解して乳酸に変えていきます。L-リンゴ酸がなくなりますと今度は多糖類を栄養源として繁殖していき多糖類を分解していきます。その為、採取して長時間放置しておきますと酵素と細菌の為に有効物質である多糖類がまったくなくなってしまいます。
これは、キダチアロエにもアロエベラにも言える事ですが、加工処理の方法によって、出来たアロエ加工原料に含まれる多糖類量も分子の大きさもバラバラで、1つとして同じ製品はありません。その為、製造各社それぞれ、自社のアロエ加工原料が最も効果が良いと主張しあっていました。細菌汚染による品質の低下は、その製造施設の衛生管理の悪さから来るものなので論外として、酵素のために分子量の違ったアロエ多糖類が製品に含まれる為、最近数年間のアメリカでのアロエベラの品質に関する議論は、アロエベラが持つ多糖類の分子量の大きさに集中してきました。
実は、200万ダルトンもの高分子は、アロエベラを加工して原料、特に粉体原料を作る上で大きな問題でした。アロエベラを圧搾して出来た液体は、非常に粘性の高い液体で、そのままの状態で濃縮しても、高濃度に濃縮が出来ず、低濃度から100%水分を取って粉体を作るには、非常にコストがかかるからです。高濃度に濃縮するためには、粘度を低下させる必要があります。それでアメリカの多くの原料製造会社は、更に酵素を加えて分解を加速させて低分子化を促進させています。
一方で、天然状態の高分子の多糖類が、最も効果が高いと主張する会社が在り、酵素処理した分子量の低い多糖類は、効果が劣ると主張してきました。その為、アロエ多糖類の分子量に関する論争がここ数年続いてきました。この論争に終止符を打ったのが、国際アロエ科学評議会(IASC)のアロエの品質判定方法として核磁気共鳴スペクトル(NMR)の導入と、シュー博士の研究発表(2)です。
表1は、ある会社の製品のNMR分析結果です。
分析項目 | 分量 | 成分の起源 |
---|---|---|
アロエベラ多糖類 | + | 天然アロエベラゲル |
グルコース | + | 天然アロエベラゲル |
リンゴ酸 | + | 天然アロエベラゲル |
乳酸 | ++ | 悪化因子(細菌) |
酢酸 | + | 悪化因子(加水分解) |
コハク酸 | + | 悪化因子(酵素) |
フマール酸 | − | 悪化因子(酵素) |
ギ酸 | − | 悪化因子 |
安息香酸 | + | 添加剤(防腐剤) |
ソルビン酸 | + | 添加剤(防腐剤) |
モルトデキストリン | +++ | 添加剤(不明) |
その他 | + | その他の添加剤(防腐剤) |
これは、基本的に行われる分析で天然のアロエに存在しない物質を調べております。天然アロエベラゲルに存在するアロエ多糖類とリンゴ酸は、+++以上でないと天然と同品質とは言えません。悪化因子とは、加工処理や衛生管理の悪さから発生するもので、悪化因子がある製品は、品質が悪いと言えます。添加物は、人工的に加えられた物質で、モルトデキストリン以外は、ほとんどが防腐剤です。モルトデキストリンは、粉末の増量剤として入れられたもので、もしこの原料が100%天然であるとして売られていたら、完全に偽物を売っていることになります。(実際は、天然として売られている) この原料は、モルトデキストリンが添加されているので200倍濃度の乾燥粉末として売られていると考えられますが、この原料の評価結果は、
「半分腐りかけたアロエから低い処理技術の工場で作られ、更に増量の為にモルトデキストリンを添加した粗悪品」
と言うことになります。
更に、カラムクロマトグラフとNMRを組み合わせることで、各製品のアロエ多糖類の分子量も解るようになりました。表2は、現在アメリカで売られているアロエベラ原料の分析結果です。
総多糖類量 | 中分子多糖類量 | 単糖 | 細菌汚染 | デキストリン添加 | |
---|---|---|---|---|---|
天然アロエベラゲル | +++ | + | + | − | − |
A社 | +++ | +++ | + | − | − |
B社 | ++ | − | ++ | +++ | − |
C社 | + | − | + | ++++ | − |
D社 | − | − | +++ | − | ++++ |
E社 | − | − | +++ | − | ++++ |
F社 | − | − | +++ | − | ++++ |
G社 | +++ | − | ++ | − | − |
H社 | + | − | ++ | ++ | +++ |
I社 | − | − | + | + | +++ |
アメリカでアロエベラ原料を発売している9社の内、天然と同品質のアロエ多糖類が含まれているのは2社だけで、残りは、すべて粗悪品ということになります。9社の内4社の製品には、アロエ多糖類が全く含まれていません。これは、アロエ製品として売られていますが、全くアロエではないことになります。9社の内4社で細菌汚染が見つかっておりますので、これらの会社は、腐ったアロエから製品を作っていることになります。9社の内5社からモルトデキストリンが見つかっております。これらの製品は、アロエの偽物ということになります。 この内4社には、アロエ多糖類も含まれていませんから、デンプンをアロエと言って売っていることと同じになります。
シュー博士の発表により、天然のアロエ多糖類より分子量が8万ぐらいの部分分解したアロエ多糖類の方が免疫増強や細胞増殖に対する生理活性が高いことがわかりました。この分子量のアロエ多糖類は、酵素処理することで得られますが、8万前後の均一な分子量を作り出すのが非常に難しく、通常酵素処理した場合、分解が進みすぎて1000ダルトン以下の低分子になってしまいます。表2でアロエ多糖類も少なく、中分子アロエ多糖類(5万から10万ダルトン)も含まれておらず、単糖が天然に比べて多い製品は、明らかに酵素処理が進みすぎた結果だと考えられます。表3は、シュー博士が行った分子量別の細胞増殖の試験結果(未発表)ですが、この試験結果から低分子量のアロエ多糖類の生理活性は天然や中分子量に比べて低いという結果がでています。
アロエ多糖類 | 細胞増殖率 | 分子量(ダルトン) |
---|---|---|
天然アロエベラゲル | 17.7% | 100−200万 |
低分子アロエベラゲル | 10.9% | 1000前後 |
中分子アロエベラゲル | 22.7% | 5−10万 |
以上の結果、アメリカでは、アロエ多糖類の分子量の薬理作用に関する論争に結論が出されました。5-10万ダルトンの分子量のグルコマンナンを含むアロエベラ製品が、消炎とか皮膚修復などに優れた効果があると言うことになります。だからと言って天然のアロエベラが悪くて、加工処理したアロエ原料が良いと言うことにはなりません。天然の高分子量のアロエ多糖類は、高分子量であるが故に優れた物性を持っているからです。それは、粘度であると考えられます。高粘度の天然のアロエベラゲルは、皮膚に付着しやすく、皮膚に水分を含んだ膜を形成します。外傷の上に塗布しますと、この膜は、保護膜となり、外傷を保護すると共に、傷口に水分を補給し、外傷の治癒を促進します。正常な皮膚に塗布した場合も皮膚表面を滑らかにし、皮膚を保護します。このような物理的効果は、粘度の低い低分子量や中分子量のアロエ多糖類より粘度の高い高分子量のアロエ多糖類の方が多く持っています。しかし、天然と同じ高分子を維持したままで、アロエベラ原料を作ることは、非常に難しく、自身の持つ酵素やその加工処理過程で粘度は、ドンドン低下していきます。私も色々と実験しましたが、すこし ぬるっとする程度の液しか作れませんでした。どうしてもとこだわる場合は、鉢植えのアロエの葉を切って塗る以外にはないのではないかと思います。
参考文献
1. Study Report, Aloe vera Quality Control, Spectral Service, Laboratorium fur Auftragsanalytik GmbH, Vogelsanger Strase 250 D-50825 Koln Germany, June 3, 1998
2. Qiu Z, Jones K, Wylie M, Jia Q, Orndroff S. Modified Aloe barbadensis Polysaccharide with Immunoregulatory Activity, Planta Med., 66 (2000) 1-5.